「今ここ」に生きるということ

書くことと振り返りが導く人生の変容。なぜ今、「書くこと」「振り返ること」が重要なのか？

「気がつけば、あっという間に1日が終わっている」
「毎日忙しいけれど、自分が何を感じていたのか思い出せない」
そんな感覚を覚えたことはないでしょうか。

現代社会は、情報の洪水とスピードに満ちています。仕事のタスクをこなすこと、家庭の責任を果たすこと、周囲に迷惑をかけないように気を配ること──私たちは毎日、外側の「すべきこと」に意識を向け続けています。その結果、自分自身の内側で「何を感じているのか」「どうしたいと思っているのか」という問いかけを置き去りにしがちです。

そんな時こそ、大切になるのが「今ここ」に立ち返る習慣です。
そしてその実践として、最もシンプルでかつ効果的なのが、「書くこと（ジャーナリング）」と「振り返ること（リフレクション）」です。

書くことで、頭の中のもやもやが言葉になります。
言葉にすることで、自分の本当の思いや感情が見えてきます。
さらに、それを振り返り、必要に応じて他者の視点（フィードバック）を受けることで、私たちは少しずつ「自分らしい在り方」に気づき、行動を変えていけるようになります。

本記事では、「今ここ」に意識を向けることの意味から始め、
書くことの効果、振り返る力、そしてフィードバックの活用法まで、
人生を深く生きるためのヒントを丁寧に掘り下げていきます。

「今ここ」に意識を向けるとはどういうことか

「今ここに集中しましょう」とはよく言われますが、それが実際にどういう状態を指すのか、意外と分かりにくいものです。過去の失敗を思い出して落ち込んだり、未来の不安に押しつぶされそうになったり──私たちの心は、しばしば「今」から離れて漂っています。

しかし、人生が実際に動いているのは常に「今この瞬間」です。禅の教えでも、マインドフルネスでも共通して強調されるのは、「過去でも未来でもなく、今この瞬間に気づきを向けること」の大切さです。

たとえば、呼吸に意識を向けるというシンプルな行為があります。
「今、自分は吸っている。次に、吐いている」──ただそれだけに注意を向ける。最初はうまく集中できなくても、繰り返すうちに、頭の中の雑音が少しずつ静まってくるのを感じられるようになります。

これは、脳科学的にも裏づけがあります。呼吸に意識を向ける瞑想を続けることで、脳の扁桃体（感情のコントロールを担う領域）の活動が穏やかになり、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が減少するという研究結果があります。つまり、「今ここ」に意識を戻すことで、心身の状態が整い、よりクリアな思考と穏やかな感情が得られるのです。

LifeShiftCoachingでは、セッションの冒頭で必ず短い呼吸瞑想や姿勢の整えを行うことが推奨されています。それは、クライアント自身が「今、ここにいる」という感覚にアクセスするための準備でもあるのです​。

この「今ここにいる」という感覚をベースにして初めて、自分の思考や感情を丁寧に観察し、書き出し、振り返る準備が整います。

書くこと（ジャーナリング）がもたらす3つの効用

「ただ書くだけ」で本当に何かが変わるのか──そう思われる方もいるかもしれません。けれど実際に、多くのコーチング実践者や心理学の現場で「書くこと」が持つ力は繰り返し強調されています。それはなぜでしょうか？

LifeShiftCoachingのセッションでも朝の「自己内省と書き出し」から始まります。ここではジャーナリングという手法が使われ、以下のような効用が期待されています​。

1. 思考と感情の可視化

頭の中だけでぐるぐる考えていると、同じことを繰り返したり、漠然とした不安に飲み込まれたりしがちです。しかし、紙に書き出すことで、自分が実際に何を考えているのか、何を感じているのかが「見える」ようになります。

これは、脳内のモヤモヤを“外在化”する行為です。無意識のパターンに気づきやすくなるだけでなく、「あれ？意外とこんなことで悩んでいたんだな」と、自分の中の声に優しく寄り添う入り口にもなります。

2. 無意識のパターンに気づくこと

ジャーナリングを習慣にしていくと、書いた内容にある“繰り返し”に気づくようになります。たとえば、「また同じ場面で怒っている」「同じ人の言葉に引っかかっている」など、無意識の反応パターンが浮かび上がってくるのです。

これらの気づきは、単なる「記録」では終わりません。リフレクションの材料となり、自分が無意識に選んでいた行動や感情のクセに気づく重要なヒントになります。

3. 感情的整理と前進する力

書くことで、心の中の感情が整理されます。特にネガティブな感情に対しては、ただ「感じている」と言葉にするだけで、不思議と少し落ち着くことがあります。心理学でも、感情を言語化することで脳の情動系の活動が抑えられるという研究があり、実際にストレスの軽減効果が報告されています。

そして、書いた先にあるのが「次にどうするか」という前進の問いです。「じゃあ自分はどうしたい？」「明日、どんなふうに過ごしたい？」──そんな問いが自然と浮かんでくるのです。

これが、単なる日記や記録ではない、ジャーナリングの真の力なのです。

リフレクション（振り返り）の構造と効果

「振り返る」という行為は、単なる“思い出すこと”ではありません。それは、自分自身の内側を静かに見つめ直し、そこにある感情や行動の意味を問うこと。つまり、「自分との対話」です。

LifeShiftCoachingでは、セッションを通じて得られた気づきを「リフレクション→フィードバック→次の行動」へとつなげていくプロセスを大切にしています。これは、OODAループ（Observe, Orient, Decide, Act）にも通じる、自己変容の実践サイクルです​。

1. OODAループに学ぶ、柔軟で深い振り返り

• Observe（観察）：何が起きたか、どんな感情が湧いたかを客観的に見つめる。
• Orient（方向付け）：なぜそう感じたのか、自分にとって何が大切だったのかを考える。
• Decide（決断）：これからどうありたいか、何を手放し、何を選ぶかを決める。
• Act（行動）：小さくても一歩を踏み出し、再びその結果を見つめ直す。

このプロセスを繰り返すことで、私たちは少しずつ“自分の軸”を築いていけます。

2. 「書いたものを読み返す」ことで起きる変化

ジャーナリングで書いた内容を、少し時間をおいて読み返してみると、そこには不思議な変化があります。「あのとき、なんでこんなに悩んでいたんだろう？」と笑えたり、「この時の気づき、今の自分にとって重要だった」と感じたり。

時間をおいて読み返すことで、その瞬間には見えなかった意味やパターンが浮かび上がります。これがリフレクションの醍醐味です。思考や感情を時間軸でとらえ直すことで、自己理解の層がより深くなっていきます。

3. 「習慣化」が成長の鍵になる

1回の気づきでは人は変われません。大切なのは、日々の中で小さな振り返りを続けることです。LifeShiftCoachingでは、セッション後にメールでのフィードバックを行い、クライアントが日常の中でもリフレクションを継続できるようサポートしています。

このように「観察→振り返り→調整→再実行」というループを回し続けることで、変化は持続的なものになります。

フィードバックの本質──他者の視点がもたらす気づき

自分の内面を見つめ、言葉にして書き出し、振り返る──それだけでも深い気づきは得られます。けれど、もう一つの視点が入ることで、その気づきが一気に広がる瞬間があります。それが「フィードバック」です。

1. 哲学対話が教えてくれること：「問い直し」の力

LifeShiftCoachingでは、哲学対話の手法を用いたフィードバックが重視されています。これは、アドバイスや評価ではなく、「あなたはどう思う？」「なぜそう感じるの？」といった問いかけを通じて、クライアント自身の思考を深める関わり方です。

たとえば、自分では当然だと思っていた考えに対して、「それって本当にそうでしょうか？」とやわらかく問いかけられることで、「あれ？もしかしたら別の見方があるかもしれない」と視野が広がります。

これは、「自分の中に答えがある」ことを信じる姿勢でもあります。他者の視点を通して、自分自身が新たな自分に出会う瞬間。それがフィードバックの真の価値です。

2. 「受け取る力」と「選択する力」

フィードバックは時に、自分にとって「耳が痛い」ものも含まれます。しかし、それを無批判に受け入れる必要はありません。大切なのは、「自分にとって何が響くか」「今の自分に必要な視点はどれか」を、自ら選択する力です。

つまり、フィードバックとは「受け身のプロセス」ではなく、「主体的に内面を耕すツール」なのです。

3. セッション後のフィードバックがもたらす循環

LifeShiftCoachingでは、セッション後にメールでのフィードバックを行うことで、内省のプロセスを日常に持ち帰り、次回セッションへの橋渡しとしています。この「対話の余韻」が、気づきを深く根付かせ、次の行動へとつなげる力になります​。

自分の思いや行動に他者が関心を寄せ、問いかけてくれる──それだけでも、人は「見られている」安心感を感じ、変化のモチベーションが高まるのです。

「今ここ」に立ち返る日々の習慣を育てる

日々の忙しさのなかで、私たちはつい「自分を後回し」にしがちです。けれど本当は、自分自身の内側に静かに目を向け、「今、何を感じているのか」「何を望んでいるのか」に気づく時間こそが、人生を大きく変える力を秘めています。

そのために必要なのは、大げさなことではありません。

• 朝、数分だけでも呼吸に意識を向けてみる
• 頭の中にあることをノートに書き出してみる
• 週に一度、自分の言葉を読み返してみる
• 誰かと素直な気持ちを共有してみる

これらの「小さな実践」を続けることで、「今ここ」に意識を向ける力が育ち、思考や感情のパターンに気づき、自ら選び、行動する力が高まっていきます。

そして何より、それは「自分の人生を、自分の手に取り戻す」という静かな宣言でもあります。

LifeShiftCoachingで大切にされているのは、まさにこのプロセスです。
書くこと。振り返ること。そして、誰かと対話をすること。
この3つのサイクルが回り始めたとき、人は自然と変わっていくのです。

もしあなたが今、「このままでいいのだろうか？」と感じているなら、まずは一枚の紙とペンを手に取ってみてください。

最初の一行は、たった一言でも構いません。
「なんとなく、モヤモヤしている」とだけでも。
そこから新しい何かが、必ず始まります。